デジタル物理学とは、宇宙や物理的現実の根底にあるのは連続的な場や実数ではなく、離散的な情報とそれを更新する計算過程であるとみなす立場である。物理法則を微分方程式ではなく、有限個の状態と局所的な書き換え規則によって記述しようとする点に特徴があり、しばしば「宇宙は巨大な計算機である」という定式で語られる。

系譜としては、1969年にコンラート・ツーゼが『Rechnender Raum(計算する宇宙)』で空間そのものをセルオートマトンとして捉える着想を示したことが出発点に挙げられる。その後エドワード・フレドキンは、自然が本質的に有限で離散的であるとする「デジタル哲学」を展開し、スティーヴン・ウルフラムは『A New Kind of Science』(2002年)で単純な規則から複雑な振る舞いが生じることを膨大な計算実験によって示し、明らかに単純でない系の計算能力はすべて等価であるとするPrinciple of Computational Equivalence (PCE)を提唱した。Rule 110のような初等セルオートマトンがTuring machineと同等の万能計算能力をもつという結果は、ごく単純な離散規則が原理的にあらゆる過程を再現しうるという主張の支えとなっている。

デジタル物理学は実験的に検証された物理理論ではなく、存在論的な仮説あるいは方法論的な構えとして受け取られている。ただし、規則の反復から秩序やパターンが立ち上がるEmergenceへの関心を介して、ジェネラティブアートやシミュレーションを用いた表現に、離散的な計算を世界の記述そのものとして扱う語彙を与えてきた。