格子ガス・オートマトン(LGA)は、格子上を移動し衝突する粒子群によって流体を離散的に表現するセルオートマトンの一種である。各セルは決まった方向の粒子が「いる/いない」という真偽値だけを保持し、時間発展は隣接セルへ粒子を送るストリーミング工程と、同一セルに集まった粒子の運動量を組み替える衝突工程の反復として与えられる。衝突則は質量と運動量を保存するよう設計され、その帰結としてマクロなスケールで流体らしい振る舞いが立ち現れる。

最初のモデルは1973年に提案された正方格子上のHPPモデルであり、1986年のFHPモデルでは正六角形格子が採用され、マクロな極限で流体の等方性・回転不変性を回復させる工夫がなされた。すべてが純粋なビット演算で構成されるため丸め誤差が原理的に生じず、並列計算機と極めて相性がよい。一方で離散的な粒子に由来する統計的ノイズが大きく、複雑な流動を滑らかに再現するには膨大なセル数を要する。この限界を、粒子の有無ではなく速度分布関数を扱うことで克服したのが後続の格子ボルツマン法である。

単純な局所規則の反復から流体という大域的挙動が立ち上がるLGAは、セルオートマトンが物理シミュレーションへ展開した代表例であり、創発や自己組織化を主題とする計算的表現の前史をなす。