モバイル・オートマトン(Mobile Automata, MA)は、セルオートマトンに似た離散的な計算モデルだが、更新が格子全体で並列に行われるのではなく、常にただ一つの「活性セル(active cell)」に対してのみ行われる。活性セルは一次元のセル列上を移動し、各ステップで自身の色を書き換えると同時に、自身と左右の隣接セルからなる局所近傍の状態に応じて次の移動先を決める。ステファン・ウルフラムが『A New Kind of Science』(2002年)で、単純な規則から複雑性が生まれる条件を比較検討するために取り上げた系のひとつである。

逐次的にしか状態が変わらないため、情報の拡散や干渉が起こりにくく、複雑な挙動を示す規則はセルオートマトンに比べてはるかに少ない。2状態のモバイル・オートマトンでは局所近傍を参照する規則が65,536通り存在し、その多くは単純な反復や入れ子状の自己相似パターンにとどまるが、なかには背景が統計的にランダムに見える複雑な振る舞いを生むものもある。

制約を緩めた拡張が「一般化モバイル・オートマトン」で、活性セルが同時に複数存在することを許し、条件によって分裂したり消失したりする。活性セルが増えて情報の並列処理能力が高まるほど挙動はセルオートマトンに近づき、複雑なパターンの出現率も急激に上がる。複雑性の発現には並列性が有利に働くが、極限まで逐次化された系でも規則を選べば複雑さは生じうる——計算的等価性原理をめぐるこの論点を、モバイル・オートマトンは端的に示している。