《物々交換所》は、不要になった物を誰でも自由に持ち寄り、また誰でも自由に持ち帰ることができる、プレイヤーの関与を前提とした物々交換プロジェクトである。管理人の酒井貴史は、都市の狭間に「誰かの不要物」を増殖させ、沈黙交易としての贈与経済を創出する。酒井は、これらの無主物(持ち主のいない物)をビデオゲームにおけるクエストアイテムに見立てて空間に配置することで、ありふれた不要物を仮想的な遺物へと鑑賞者の認識を交換する。本来、酒井が管理する物々交換所は、東北・関東地方に伝わる伝承で、訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家「迷い家」モデルとして、美術大学や展示会場で運営されてきた。本展では「捏造民俗学」提唱者の猿戸檜が回収した、とある土地で断絶してしまった風習に使われていた屋台を物々交換の場にする。民具を載せた屋台は東京・馬喰町近辺を徘徊し、エンカウントした人々による物々交換が行われる。迷うのは家としての民具そのものであり、この街をゲーム空間に代替するだろう。
本作は、美術館やギャラリーの中だけで完結する作品ではなく、人々の行為や関係性そのものを素材とするプラットフォームである。プレイヤーの選択や行動が作品を成立させ、「価値とは誰が決めるのか」「豊かさとは何か」という根源的な問いを日常の中から浮かび上がらせる。