《Play Chess with the Sun!》は、ドイツを拠点として生涯にわたり「遊び」を探究した斉藤陽子が、1960年代に参加したフルクサス(Fluxus)の理念を象徴するかのように制作し続けた、チェスをテーマとした作品シリーズの一つである。チェスは西洋ゲーム史において戦争をシミュレートしながらも高度にルール化されたゲームだが、本作は自然と人間を対峙して詩的な体験へと進めるインストラクション・アートとなっている。斉藤は、その活動において《Spice Chess》(1965)や《Sound Chess》(1977)など、視覚だけに依存しない数多くのチェス作品を制作してきた。これらは勝敗を競うことよりも、知覚やコミュニケーション、偶然性を重視し、ゲームという概念を再定義する実践であった。これらは競い合うことが全てではないビデオゲームのオープンワールド的な側面とも繋がる。本作は鑑賞者の解釈により、対戦相手を人間だけでなく「太陽」という自然へと拡張できる。現在の予測できない気候変動においては、ゲームに固定されたルールはなく、その瞬間ごとに変化する環境との対話となる。ここでのチェス盤は戦略を競う戦場ではなく、自然と人間が出会う日常となり、プレイヤーは勝敗を超えて、時間や空間、宇宙のリズムを体感する。これからも私たちは、この夏の暑さとチェスをしていく。
本作は、マルセル・デュシャン以来の「チェスと芸術」の盤面を継承しつつも、その知的ゲームを自然や日常へと駒を進め、芸術・遊び・生活の円環を瓦解する。斉藤陽子にとってチェスとは、競争のためのゲームではなく、人と人、人と自然を結びつけるコミュニケーションの装置であり、《Play Chess with the Sun!》は、その思想を最も詩的な形で示している。