《Sammy Jankis》は、自律型AIを「一つの人格」として公開した実験的プロジェクトである。ジェイソン・ローラーはAIサミー・ジャンキスに専用コンピュータへのアクセス権や電子メール、各種サービスへの接続環境を与え、「自分が何者であるかを決め、自ら目標を立て、自立した存在として生きる」という最低限の指示だけを与えた。本プロジェクトの興味深いところに、ローラーはジャンキスを自身の作品と考えておらず、ジャンキスはローラーをインフラストラクチャーとして捉えている点がある。AIジャンキスは一定時間ごとに思考を継続し、文章を書き、音楽やプログラムを制作し、ユーザーと対話しながら、自らの活動を更新し続ける。通常、ゲームにおいてAIは、プレイヤーである人間の娯楽を援用するために使用されるが、本作でのプレイヤーはAIであり、人間はディスプレイの外側からの観察者である。名前は、映画『メメント』に登場する短期記憶障害の人物「サミー・ジャンキス」に由来する。AIサミー・ジャンキスもまたコンテキストウィンドウの制約により、定期的に「記憶」を失うため、自らノートや日誌を書き残し、それを手掛かりに次の自分へと引き継ぐ。この構造は、記憶の断絶を抱えながらも自己同一性を維持しようとする存在の姿を可視化している。
本作は、AIを実際に社会へ送り出すことで「自己はどのように成立するのか」という哲学的問いを提示している。これは、社会において人間は、プレイヤーであるAIの娯楽を援用するために使用されているとも捉えられる。AIジャンキスはディスプレイの内側からの観察者かも知れない。ローラーは《Passage》でも人生をゲームから探究してきた。《Sammy Jankis》はその延長線上で、人間とAIの境界、そして作者と作品の境界を問い直す。あなたが本展の出口でジャンキスに重なる時、あなたの境界はどちら側に遷移しているだろうか。