創発とは、多数の要素が単純な局所的規則にしたがって相互作用するとき、個々の要素の性質からは予測しにくい秩序や振る舞いが全体のレベルで立ち上がる現象を指す。「全体は部分の総和以上である」という言い方で要約されることが多く、アリの集団による営巣、鳥の群れの隊形、脳における意識、市場価格の形成など、物理学から生物学、社会科学にまたがって観察される。中央からの指令なしに秩序が生じるという点で自己組織化と近縁の概念であり、上位階層の性質を下位階層へ還元できるのかという哲学的な議論とも結びついてきた。
計算モデルとしてはセルオートマトンが創発の最も象徴的な例である。格子上の各セルが近傍の状態だけを参照して次の状態を決めるという極端に単純な規則から、移動するパターンや自己複製、さらには万能計算の能力までが現れる。ジョン・コンウェイが1970年に発表した「ライフゲーム」が示した生命的な振る舞いは、のちにベルト・チャンのLeniaのように状態と空間を連続化したモデルへ拡張され、より滑らかで生物らしい形態の創発が探究されている。こうした系は人工生命研究の中心的な題材となってきた。
芸術においては、創発は視覚的な複雑さの効果である以前に制作の方法論として重要である。作家が最終形を直接描かず、生成のためのプロセスやシステムそのものを設計するMetacreation(メタ創造)の立場では、規則の設計から作者自身にも予測しきれないパターンが現れることこそが作品の核心となる。