運動視差とは、観察者が移動する際に、対象までの距離に応じて網膜上の像の移動速度が変化し、その速度差から奥行きが知覚される現象である。像の角速度は距離にほぼ反比例するため、近い対象は速く、遠い対象は遅く動いて見え、月のように極端に遠い対象はほとんど静止して見える。片眼でも成立する単眼性の深度キューであり、両眼視差(ステレオプシス)が有効に働かない中距離から遠距離において、奥行き知覚の主要な手がかりとなる。

視線を固定して横に移動すると、注視点より手前の対象は移動方向と逆に、奥の対象は同じ方向に流れる。この向きの反転と速度の勾配が、観察者に対象の前後関係を伝える。ジェームズ・J・ギブソンが論じたオプティカル・フローの理論では、こうした網膜像全体の流動そのものが、環境の構造と自己の移動を同時に告げる情報として位置づけられる。列車の車窓から風景を眺めるとき、私たちが意識せずに「速度の勾配」から空間の奥行きを読み取っているのは、この働きによる。

運動視差は表現技術としても広く応用されてきた。アニメーションのマルチプレーン撮影、ゲームやウェブで背景を層に分けて異なる速度で動かすパララックス・スクロール、頭部追跡によって視点移動に応じた像を返すディスプレイなどが、いずれも同じ知覚のしくみを利用している。計算機視覚の分野では逆向きに、時系列画像中の像の動きから三次元形状を復元する手法(structure from motion)の基礎となっている。映像表現においては、カメラの移動によって生まれるこの速度差そのものを素材として扱い、時空間を切り出す試みも行われている。