スリットスキャンとは、細い隙間(スリット)を通して像を少しずつ走査し、時間の経過を画面上の位置の変化として一枚の画像に定着させる撮影技法である。写真の時代には、フィルムを一定速度で送りながら縦一本のスリットから露光する方式として使われ、競技のゴール判定に用いられる写真判定カメラや、レンズを回転させながら露光するパノラマカメラがこの原理で成り立っている。得られた画像では、横軸が空間ではなく時間の軸に置き換わるため、静止した被写体は縞状に伸び、動く被写体は速度に応じて伸縮したり歪んだりする。映画では、スリットの前でカメラを長時間露光しながら移動させることで幾何学的な光の帯を生む手法として応用され、『2001年宇宙の旅』終盤の光のトンネルの映像がよく知られる。
デジタル映像では、この原理はフレーム列に対する操作として再構成される。動画を撮影順にフレームを積み重ねた立体(時空間ボリューム)とみなし、その内部を任意の面で切り出すと、通常の再生では現れない断面が得られる。各フレームから一列だけを取り出して並べる操作がその典型で、一枚の画面のなかに異なる瞬間が同時に並ぶことになり、フレームが保証していた時間の同時性は解体される。切断面の角度や走査の速度を変えるだけで結果が大きく変わるため、映像を彫刻的な素材として扱う手法として用いられる。
走行する乗り物の車窓のように、被写体の側が一定方向に動き続ける映像はスリットスキャンと相性がよく、風景を順次サンプリングして情報の地層として蓄積する発想と結びつけられる。古澤龍の《Passing》は、車窓映像をこのように時空間ボリュームとして処理し、断面の抽出によって時間と空間の秩序を組み替える作例である。