アート市場とは、美術作品が売買され、その価格と評価が形成される経済圏を指す。作家から直接作品を扱うギャラリーなどの一次市場と、オークションや再販による二次市場に分かれ、そこに批評、美術館の収蔵、アートフェア、コレクターのネットワークが絡み合って作品の位置づけが決まる。作品の価格は素材や制作時間から導かれるものではなく、来歴、希少性、真正性の担保、そして制度的な承認によって社会的に構築される。

この価値形成の恣意性は、しばしば作品自身の主題となる。ケヴィン・アボッシュの『Potato #345』(2010年撮影、2015年に約100万ユーロで売却)は、アイルランド産の平凡なジャガイモを、世界的な権力者やセレブリティの肖像と同じ照明・同じ黒背景・同じ技術的精度で撮影した作品である。高額なポートレートで知られる作家の署名が付与されることで土のついた根菜が高額の象徴へと変容する事態そのものが、市場文化が作品に与える威光(オーラ)を分解する批評的パフォーマンスとして機能した。作品をめぐって噴出した困惑や不信感も、価値が形成される過程の一部として作品に組み込まれている。

デジタルアートや生成メディア、NFTのように、複製可能性や自動生成を前提とする実践は、真正性と希少性を土台としてきたこの市場と摩擦を起こしやすい。既存の商業ギャラリーや美術館の制度は先進技術を用いた作品の受容に遅れを見せ、分類の枠組みも流動的なため、作品の位置づけは不安定なままに置かれる。ブロックチェーン上での発行は、中央集権的な機関を介さずに真正性と所有を証明する試みとして、この構造そのものへの介入となっている。