「触覚的(haptisch)」とは、対象との距離を圧縮し、表面へと近接していく見方を指す概念である。20世紀初頭の美術史家アロイス・リーグルが、距離を保って奥行きのなかに対象を捉える「光学的(optisch)」な視覚と対比して用いた区別に由来し、輪郭や質感、界面そのものに触れるように向かう知覚のモードを言い表す。のちにジル・ドゥルーズが絵画論や空間論に引き継ぎ、視覚が触覚のように働く経験を論じたことで、美術史の枠を超えて広く参照されるようになった。
現代のメディア環境では、この概念はスクリーンをめぐる議論と結びつく。映像メディアは解像度やフレームレートの向上によって媒介としての透明性を高めてきた一方、ポータブル・デバイスの普及とタッチ操作の常態化は、スクリーンを触れうる界面として前景化させた。そこでは光学的な深さと触覚的な浅さは排他的に切り替わるのではなく、同一の経験のうちで同時に強調され、重なり合う。大原崇嘉の個展「スクリーンの肉」は、ディスプレイ自体が運動する状況をつくることでこの重なりを扱い、鑑賞者が目で追い、焦点を合わせ、周囲を移動するという身体的な関与のなかに映像を置いた。