文芸理論家ジェラール・ジュネットが『Seuils』(1987年、英訳 Paratexts: Thresholds of Interpretation, 1997年)で定式化した既存の術語である。本項は新造語ではない。

パラテクストとは、作品そのものではないが作品を取り囲み、それを読者や観客のもとに差し出し、読みを枠づける層を指す。書物であれば表題、著者名、序文、装丁、帯、書評、インタビュー。ジュネットはこれを、内でも外でもない「敷居(seuil)」と呼び、作品に物理的に隣接するペリテクスト(表題、装丁、目次)と、作品から離れて流通するエピテクスト(インタビュー、広告、書評)に分けた。

ジュネットは、何がパラテクストであるかの条件を一つ置いている。「著作者またはその関係者の一人がそれについて責任を引き受けるのでなければ、それはパラテクストではない」(Paratexts, p. 9)。パラテクストは作品の周囲にある情報一般ではなく、誰かが責任を引き受けた表示である。

ゲーム研究はこの語を1997年のエスペン・アーセス以降取り入れ、ミア・コンサルヴォ『Cheating』(2007年)が攻略本・雑誌記事・プレイヤーの書き込みまで含めて拡張した。コンサルヴォの定義では、パラテクストは「中心となるテクストを取り囲み、そのテクストに意味を与え、我々の理解を枠づけ形づくるテクストまたは人工物」である。ヤン・シュヴェルフによる研究史の整理(Game Studies 20(2), 2020年)は、ゲーム研究における受容が「製作者およびその関係者以外が作った要素」まで対象を広げてきた経緯を記録している。この拡張はジュネットの責任要件を緩めるものであり、両者の定義は同一ではない。

デジタル作品ではこの層が制度的に固定されている。アプリストアの題名欄、説明文の冒頭数行、起動画面、パッケージ画像、プラットフォームが表示する販売者名、更新履歴。文字数や反映までの時間はプラットフォームの規則が決めており、作品を作った者も配信する者もそれを書き換えられない。

なぜこの語が権利の問題に関わるのか。作品への権利(著作権)が存在しないか放棄された場合、作品の複製と改変を止める手段は無くなる。しかしパラテクストに対する主張は、別の法理——不正競争、虚偽表示、商標、名誉毀損——の対象として残る。米国連邦最高裁は Dastar Corp. v. Twentieth Century Fox Film Corp., 539 U.S. 23 (2003) で、著作権が満了した作品について「複製する権利、そして帰属表示なしに複製する権利」は公衆に移ると述べ、商標法(ランハム法第43条(a)(1)(A))の「商品の出所」を著作者性の意味では読まないと判示した。同時に判決は、同条(B)の「性質、特徴もしくは品質を誤って表示する」規定と、1988年改正が加えた「後援もしくは承認」についての混同の禁止に触れている。作品の複製は止められないが、承認されているという印象については争いうる、という配置である。

事例

ジェイソン・ローラー『One Hour One Life』の移植版紛争(2019年)。ローラーは同作をパブリックドメインに置き、GitHub の no_copyright.txt に「好きなようにしてよい。絶対に制限はなく、許可も必要ない」と書いていた(2015年の初版から2019年3月15日まで、この文に限定句は無い)。2018年、スウェーデンの Wereviz AB(開発チーム名 Dual Decade)が無断のモバイル移植版を配信し、商業的に成功した。

2019年3月1日、ローラーは自身のフォーラムに公開の抗議文を出す。要求は3項目で、指定されたのは掲示の位置と文言だった——各アプリストアの題名に "Unofficial" を含めること、説明文の冒頭2行を「Unofficial Adaptation / Not approved by original author Jason Rohrer」に変更すること、同じ2行をアプリのメニュー画面に常時表示し、インターフェースの他の部分とは別の書体で組むこと。要求されたのはクレジットではない。彼は「そこに私の名前が出る必要はない」と明記し、CC BY ライセンスを「私は大抵の場合クレジットを気にしていない」として退けている。求めたのは帰属の表示ではなく、自分が承認していないという表示である。ジュネットの責任要件を否定形で行使したことになる。
出典: onehouronelife.com ↗

同月16日、no_copyright.txt は「著作権の問題に関するかぎりは」という限定句と三つの留保(著作者人格権/パブリシティ権と名誉毀損に対する権利/商標権)を得た。コミットメッセージは "Clarification"。放棄の範囲は、範囲が争われたあとで文書に書かれた。
出典: github.com ↗

決着もパラテクストで起きた。現在の App Store の当該アプリ(ID 1386813914)は題名が「You are Hope」、販売者は Wereviz AB で、説明文には「『You are Hope』は、ジェイソン・ローラーが制作した『ONE HOUR ONE LIFE』という PC ゲームの旧バージョンに基づいている。ただし同じゲームではない」と書かれている。ローラーが要求した文言そのものではない。そして URL の経路名は現在も one-hour-one-life-for-mobile のままである。表示される題名は動き、識別子は動かなかった。
出典: apps.apple.com ↗

この事例が示す限界も記録する。ローラーの留保第3項は、商標の対象として「『One Hour One Life』という名称、私のロゴ、バナー、トレイラー、スクリーンショット」に加えて「公式版ゲームにおける特定のグラフィック要素・音響要素・キャラクター要素」を挙げている。後半はパラテクストではなく作品の内部である。権利の留保はパラテクストの層に収まらない。米国法ではこの種のトレードドレス主張に Wal-Mart Stores v. Samara Brothers, 529 U.S. 205 (2000) が二次的意味の立証を要求しているが、この件は争われていないため帰結は不明である。
出典: github.com ↗

CC0 における対応物。Creative Commons の CC0 1.0 は著作権と関連権利を「撤回不能かつ無条件に」放棄すると宣言しながら、第4条(a) で「宣言者が保有する商標権および特許権は、本文書によって放棄……されない」と定める。放棄文書が唯一名指しで留保するのは、名称と標章——パラテクストを構成する要素である。
出典: creativecommons.org ↗