Synthetic Photography は、写真家が自ら蓄積した写真アーカイブで生成モデルを訓練し、そのモデルから像を引き出す制作方法を指す概念である。既製の巨大モデルにプロンプトを入力して画像を得る行為とは区別され、何を学習させるかの選択自体が撮影に相当する。アイルランドの概念芸術家ケヴィン・アボッシュ(Kevin Abosch, 1969年生)がパリ・フォトのデジタルセクターなどで本格的に展開した。
アボッシュは生物学の背景を持ち、実験室でのデータ解析や初期のコード記述を通じて機械学習の機序を習得した。数万枚に及ぶ自身の写真アーカイブや独自に収集したデータセットで拡散モデルを訓練し、その過程を、人間が経験を通じて果実のイメージを頭の中に形成するように、機械の内部へ世界の視覚的理解を彫刻していく対話的プロセスとして捉えている。
この方法は写真の真実性をめぐる問いに直結する。作品シリーズ『#CIVICS』(2023年、メルボルンのビクトリア国立美術館NGVトリエンナーレで展示)と『Ethical Work』(2025年)では、世界各地の抗議活動、市民的不服従、警察の圧力を模した100点の像が提示された。一見すると報道写真だが、細部には生成特有のノイズが混入している。写真は元来、光学的な複写にすぎないにもかかわらず、レンズが捉えた像は絶対的な真実と誤認されてきた。合成分光学は、そのエラーとノイズを通じて写真がまとってきた真実の表象という神話を解体し、ディープフェイクと情報操作が横行する状況で、何が現実であり真実の境界線はどこにあるのかを問い直す。