序論
ネット・アートの作品は、誰かの機械が動いているあいだだけ開くことができる。ドメインの更新料を払う人がいて、サーバーの電気代を払う人がいて、OSが上がるたびに古いスクリプトを直す人がいる。作品がいまブラウザーで開けるということは、その全部が今日も続いているということである。
では、それを続けると約束したのは誰か。
この問いを、ネット・アートを実際に保管している組織の文書から確かめた。読んだのは、Rhizomeが作家に署名させていた受入契約書、Rhizomeに在籍した研究者が2020年にまとめた同アーカイブの調査報告、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館が収蔵する最初のウェブ作品《Brandon》の修復について修復家・学芸員・計算機科学者が連名で書いた論文、そして関係者全員が根拠として挙げる保存修復の倫理規程である。あわせて、作家自身が運用しているサーバーの応答を2026年9月2日に確認した。
出てきたのは、義務が書かれていないという不在ではない。義務は書かれている。そして、作品が動き続けることだけが、そこから名指しで除外されている。
1. 「私たちの義務」と題された節が書いていること
Rhizomeは1999年に、ネット・アートを収める公開アーカイブ「ArtBase」を始めた。2026年9月時点の同アーカイブの説明ページは、収録数を「2,200点以上」としている(About - Rhizome Artbase)。
作家が作品を提出するとき、Rhizomeは署名した契約書の提出を求めていた。そのうち「cloned object」——作品の複製をRhizomeのサーバーに置く形式——のための契約書は、電子芸術情報センター(Electronic Arts Intermix)のサイトに全文が残っている(ArtBase Cloned Object Agreement)。
この契約書には第4条「Your Obligations(あなたの義務)」と第5条「Our Obligations(私たちの義務)」が並んでいる。作家の側の義務は三つで、いずれも条件が付いていない。作品をサーバーにアップロードして動作を確認すること、連絡先を最新に保つこと、作品のURLが変わったら通知すること。
第5条は、こう始まる。
We agree to use reasonable efforts to ensure that your artwork remains secure and accessible for the future by providing high web server availability and redundant backups.
(あなたの作品が将来にわたって安全かつアクセス可能であり続けるよう、高いウェブサーバー稼働率と冗長バックアップを提供することで、相応の努力を払うことに同意する。)
約束されているのは、サーバーが動いていることと、バックアップがあることである。そして次の一文が続く。
We also intend, but are not obligated, to provide access to obsolete software and to implement measures to preserve your artwork, such as documentation, migration, emulation and reinterpretation, as indicated in the Artist Questionnaire.
(また、旧式のソフトウェアへのアクセスを提供すること、および作家質問票に示されたような記録・移行・エミュレーション・再解釈といった作品保存の措置を実施することを意図するが、義務は負わない。)
保存修復の技法として名前を挙げられている四つ——記録、移行、エミュレーション、再解釈——が、まとめて義務の外に置かれている。ファイルが残ることは約束の対象であり、そのファイルが作品として動くことは約束の対象ではない。この線が、「私たちの義務」という見出しの下で引かれている。
線はもう一段ずれる。第6条は、第5条が唯一約束したものを打ち消す。
Neither Rhizome.org nor any of its Affiliates represent or warrant that the ArtBase will be available or will be uninterrupted or error free
(Rhizome.orgもその関係者も、ArtBaseが利用可能であること、中断しないこと、エラーがないことを表明も保証もしない。)
同じ契約書のなかに、他にも同じ形の文がある。作品の更新依頼について第2条は「限られた資源のため、すべての更新依頼に応じられるとは限らない」と書く。第3条は「正当な理由があればいつでも作品とそのメタデータをArtBaseから削除する権利を留保する」と書く。第5条の末尾は、Rhizomeが立ちゆかなくなった場合について、「信頼できる第三者を見つけるよう努める(we will endeavor to find)」と書く。
この文書で作家が負っているのは義務であり、Rhizomeが負っているのは努力である。
2. 約束のない側で何が起きたか
ArtBaseには、複製を預からない受入形式もあった。「linked object」——記述とリンクだけをアーカイブが持ち、作品そのものは作家のサーバーに残る形式である。Rhizomeの説明ページは、この二本立てを導入した理由をこう書いている。作品は「Rhizomeの管理外にとどまり、リンクへのアクセスを作家が維持し続けることに依存していた」。
創設者のマーク・トライブは、2018年のインタビューで事情をこう説明している。
私たちが理解していた範囲でのニューメディア・アートの境界内にあるものは、すべて収めようとした。だが多くの場合、作品そのものを収集できないことがすぐに分かった。作家が渡したがらないこともあれば、技術的な理由で難しいこともあった。だから作品についての情報、つまりメタデータを収集した。作品そのものが手元にあるときは、それをcloned objectと呼んだ。linked objectについては、リンクを張り、メタデータをすべて持つだけだった。
(Lozana Rossenova『ArtBase Archive—Context and History』2020年 所収。以下、数値も同報告による。)
同報告によれば、Wikibaseに移行した時点でのArtBaseの作品レコードは2,897件、そのうち複製が手元にあるcloned objectは837件だった。残る約7割は、Rhizomeが場所を知っているだけの作品である。
2016年、Rhizomeのインターンだったディロン・ペティートがlinked objectのうち400点超を調べた。結果は、約55%が同じ外部の場所にまだあり、約40%はもうそこに無く、約5%は判別不能。そして、同じ場所にあった作品のうち、完全に機能していたものは40%未満だった(約10%が破損、約5%が一部損傷、残りは判別不能)。
同じ年、全米デジタル管理研修(NDSR)のレジデントだったモーガン・マキーハンが、837点のcloned objectを調べた。プラグイン依存などクライアント側の問題を抱えるものが153点あった(対象としたプラグインはFlash、Java、Shockwave/Director、QuickTime)。
複製を預かった側にも損傷はある。ただし数の落ち方が違う。預けなかった側では、約40%が住所ごと消えている。
Rhizome自身は、美術館との違いを説明ページで次のように書いている。美術館主導の取り組みが「少数の代表作の踏み込んだ修復」を中心にするのに対し、Rhizomeは大きなアーカイブを抱えているので「作品のクラス全体に及ぶ保存手法」に力を注いだ、と。
少数を選ぶ側の記録を、次に読む。
3. 美術館は、収蔵するために作品を止めた
シュー・リー・チェンの《Brandon》(1998-99年)は、グッゲンハイム美術館が1998年に委嘱した作品で、同館の収蔵品のうちウェブを主たる媒体とする最初の作品である。1993年にネブラスカ州で殺害されたトランス男性ブランドン・ティーナをめぐる、82のページとポップアップ、65,000行のコード、4,500のファイルからなる。
修復にあたった修復家ヨアンナ・フィリップス、学芸員ローレン・ヒンクソン、計算機科学者のディーナ・エンゲル、研究者マリオン・セインは、2018年に連名で経緯を発表している(html" target="_blank" rel="noopener noreferrer" class="md-url" title="https://www.digitalhumanities.org/dhq/vol/12/2/000379/000379.html">digitalhumanities.org ↗" target="_blank" rel="noopener noreferrer">Deena Engel et al., "Reconstructing Brandon (1998-1999)", Digital Humanities Quarterly 12.2, 2018)。この論文が引く館内資料から、三つのことが分かる。
第一に、委嘱した時点で、館はこの作品を収蔵する手続きを持っていなかった。学芸員ジョン・G・ハンハートは2005年にチェンへこう書いている。
このプロジェクトが実現した時点では、デジタル作品を収蔵品として受け入れる方針が整っていませんでした。そのため《Brandon》は収蔵品になりませんでした。
第二に、1999年から2002年のあいだ作品を動かしていたのは、作家とその知人である。サイトはUSWebの下請けW3がホストし、チェンはサーバーへのログイン権限を持ち続けていた。壊れたときには、当時Rhizomeの編集インターンだったアレクサンダー・ギャロウェイを「ここで数時間、あそこで数時間」という単位で雇って直させていた。
第三に、収蔵の第一歩は、作品を止めることだった。2002年、ハンハートはチェンへ「収蔵品にすることを検討している。第一段階として、後の取得に備え、オフラインにしてアーカイブしたい」と伝える。ギャロウェイはファイルをTARに固めてCD-ROMに焼き、学芸員ジョン・イッポリトへ次の但し書きを添えた。
ウェブサイトのプラグを抜けと言うのは、少し不安です。自分が知らないファイルを、知らないまま見落としている可能性があるからです。
彼はさらに「ISPにプラグを抜けと言う前に、私の作業を照合するか、シュー・リーに確認させてください」と書いている。まもなく《Brandon》はサーバーから削除され、2005年9月に正式に収蔵されるまで3年間オフラインだった。
止まったものを動かし直したのは、義務ではなく用事である。2005年、Rhizomeの展覧会「ArtBase 101」(同年6月23日公開)とバンフ・センターの「The Art Formerly Known as New Media」(同年9月17日-10月23日)から、二件の出品依頼が重なった。論文は、この二つの依頼が正式な収蔵と、館のサーバーへの移設と、最初の本格的な修復を「引き起こした(triggered)」と書く。
2016-17年の大規模な修復も同じ形をしている。館は2016年に「Conserving Computer-Based Art(CCBA)」という取り組みを立ち上げた。プレスリリースによれば、これは期限のある複数年のプロジェクトで、対象は収蔵品のうち22点、資金はカール&マリリン・トーマ美術財団、ニューヨーク州芸術評議会、クリスティーズ、および個人の寄付者による(Guggenheim, "Guggenheim Restores First Internet Artwork Acquisition through Conserving Computer-Based Art Initiative", 2017年5月16日)。《Brandon》はその事例研究の一つとして修復された。
修復の中身は丁寧である。Javaアプレットはgif、JavaScript、新しいHTMLに置き換えられ、機能しなくなったHTML要素はCSSに置き換えるかJavaScriptで動かし直した。元のコードは削除されず、コメントアウトして残された。介入のたびにコードに注釈が書かれた。エミュレートした旧環境に閉じ込める案は、20年にわたる作品の変化を任意の一点で止めることになり、「真正性の幻影」を作ってしまうという理由で退けられた。
その注釈は、いまも作品と一緒に配られている。2026年9月2日にbrandon.guggenheim.orgを要求すると、返ってくる1,745バイトのHTMLは次の行から始まる。
<!--DOCUMENTATIONAUTHOR: Emma DicksonDATE: 2/13/17PROJECT: BRANDON, Java applet/[[html|html]] migrationPURPOSE: Replacing deprecated [[html|html]] tags css has been added to emulate theoriginal look and feel of the piece.
作品を開くと、最初に読めるのは、その作品に手を入れた人の名前と日付である。
そして、これらの判断の根拠として、プレスリリースと論文が挙げるのは同じものである。プレスリリースは「In line with Conservation ethics(保存修復の倫理に沿って)」と書き、論文は「In keeping with Conservation ethics and standards(保存修復の倫理と基準に従って)」と書く。
契約書に義務が書かれていないなら、その倫理に書かれているのだろうか。
4. 全員が根拠に挙げる倫理規程に何が書いてあるか
米国保存修復学会(American Institute for Conservation)の「Code of Ethics and Guidelines for Practice」は、この分野で最も広く参照される倫理規程である(全文)。13の条項からなる。
読んで最初に目につくのは、主語である。13条すべての主語が「the conservation professional(保存修復の専門家)」であり、美術館でも、所有者でも、アーカイブでもない。規程が拘束しているのは個人である。第13条は「各保存修復専門家は、この倫理規程の理解と遵守を促す義務を負う」と書き、義務の担い手をもう一度個人に戻す。
次に目につくのは、動詞である。第8条は予防的保存についてこう書く。
The conservation professional shall recognize a responsibility for preventive conservation by endeavoring to limit damage or deterioration to cultural property, providing guidelines for continuing use and care, recommending appropriate environmental conditions for storage and exhibition, and encouraging proper procedures for handling, packing, and transport.
(保存修復の専門家は、文化財への損傷や劣化を抑えるよう努め、継続的な使用と手入れの指針を提供し、保管と展示に適した環境条件を推奨し、取扱い・梱包・輸送の適切な手順を促すことによって、予防的保存への責任を認識しなければならない。)
責任として認識する対象は、努めること、提供すること、推奨すること、促すことである。結果は書かれていない。
そして、作品が動くことについて。規程の本文で「function」という語は2回しか現れず、そのどちらも、壊してはならないものの一覧のなかにある。第6条はこうである。
The conservation professional must strive to select methods and materials that, to the best of current knowledge, do not adversely affect cultural property or its future examination, scientific investigation, treatment, or function.
(保存修復の専門家は、現在の知識の限りで、文化財またはその将来の調査・科学的検査・処置・機能に悪影響を与えない方法と材料を選ぶよう努めなければならない。)
機能は、自分の処置で損なってはならないものとして出てくる。誰かが提供すべきものとしては出てこない。これは規程の欠陥ではない。この規程は絵画も遺跡も織物も対象にしており、そこでは「動く」ことは論点にならない。ただ、《Brandon》を動かし直した根拠としてこの規程が挙げられているとき、規程の側にその根拠は書かれていない、ということになる。
ここまでで、契約書、監査、館の記録、倫理規程を読んだ。作品が動き続けることを誰かの義務として書いた文はひとつも無かった。それでも《Brandon》はbrandon.guggenheim.orgで動いている。動かしたのは、二件の出品依頼と、22点という枠と、その枠に資金を出した4者と、コードに注釈を書いた個人である。
5. 作家の側——一台のサーバー
制度の外側では、事情が単純になるわけではない。
オリア・リアリナの《My Boyfriend Came Back from the War》(1996年)は、ネット・アートの初期を代表する作品として繰り返し言及される。2026年9月2日にteleportacia.org ↗へ要求を出すと、HTTP 200が返る。中身は309バイトのHTMLで、冒頭に<!-- made by olia lialina -->というコメントがあり、黒地に白の文字で次のページへのリンクが一つある。応答ヘッダーのサーバー名はnginx/1.14.0(Ubuntu)、Last-Modifiedは2015年2月4日である。
このLast-Modifiedが、この節の要点である。1996年の作品のファイルが持っている日付は2015年で、それは誰かがこのファイルを動かしたことを意味する。1996年のサーバーソフトウェアの上に1996年のファイルが置かれたまま30年経ったのではない。移された結果として、いま開ける。
同じ日に確認したところ、teleportacia.org、art.teleportacia.org、best.effort.network、そしてmbcbftw.museumのAレコードは、いずれも同じアドレス95.216.220.243を指していた。whoisによれば、このアドレスはHetzner Online GmbHのヘルシンキのデータセンター(netname: CLOUD-HEL1、国コードFI)の割り当て範囲にある。リアリナの作品群は、借りた1台のクラウド機の上で動いている。
mbcbftw.museumが返すのは、<title>Last Real Net Art Museum</title>から始まる3枚組のフレームセットである。作家は、自分の1996年の作品のために.museumのドメインを取り、そこに自分の美術館を置いている。
リアリナは、いま述べた依存関係そのものを作品にしている。2020年7月4日から19日まで、ロンドンのarebyteギャラリーで開かれた個展の題は「Best Effort Network」だった(arebyte, Olia Lialina)。ギャラリーの解説文は、題の由来をこう書く。
インターネット・プロトコル(IP)のネットワークはしばしば「best effort」のネットワークと呼ばれる。ネットワークがデータを処理するとき、そのデータが何であるかを区別しないという意味である。つまりネットワークは、あらゆるデータのパケットをできるかぎり速く届けるために「最善の努力」をする。しかしネットワークは、パケットが完全に届くことも、重要な金融データをミームのデータと違って扱うことも保証しない。
これは比喩ではなく、規格の記述である。IPを定義するRFC 791は、第1.2節「Scope」で自らの範囲をこう限定している。
There are no mechanisms to augment end-to-end data reliability, flow control, sequencing, or other services commonly found in host-to-host protocols.
(端点間のデータ信頼性、フロー制御、順序制御、その他ホスト間プロトコルに一般的に見られるサービスを補強する機構は存在しない。)
同展に出た《Summer》(2013年)は、この構造を作品の材料にしている。ギャラリーの解説によれば、18枚の静止画が26の異なるウェブサイトに置かれ、各サイトがブラウザーを次のサーバーへリダイレクトすることで、ドメインをまたぐアニメーションになる。解説はこう書く——「インターネット上で最も脆いGIFである。ノードが1つ落ちれば作品は壊れる」。リアリナ自身の言葉も併記されている。
ブラウザーのロケーションバーでブランコを漕ぐのが好きだ。漕ぐ速さが接続速度に左右されること、このGIFをオフラインでは見られないことを、知っているのが好きだ。
《Hosted》(2020年)は70フレームのアニメーションで、各フレームが別々のホスティングサービスに置かれている。2026年9月2日時点で、リアリナ自身の索引ページからこの作品へ張られたリンクの宛先は、Microsoft Azureの静的ウェブサイト用ドメイン(hosted.z21.web.core.windows.net)だった。
ここには、Rhizomeの契約書と同じ形が別の層に現れている。契約書が「相応の努力」と書き「義務は負わない」と書いたのは、その作品が乗っているネットワーク自体の約束の形と同じである。ただしこの一致は、どちらかがどちらかを真似た結果ではない。この重なりは筆者の読みであって、引いた資料のいずれも両者を結び付けてはいない。
6. 対称に収まらないもの——《Agatha Appears》の三つの現在
ここまでの記述は、預かる側と作家の側という二項で進んできた。この二項に収まらない例が、同じ作家の別の作品にある。
リアリナの《Agatha Appears》(1997年)は、鑑賞者を13のドメインへ次々と転送していく作品だった。リアリナ自身が公開している覚え書きに、当初の経路が残っている(pad.profolia.org/agatha。彼女の索引ページからリンクされている共同編集ページである)。www.design.ru、www.here.ru、www.altx.com、www.distopia.com、www2.arnes.si、www.zuper.com、www.jodi.org、www.vuk.org、www.easylife.org、www.irational.org、www.tema.ru、www.thing.at、www.superbad.comの13件である。リアリナはこの覚え書きで、「Agathaのドメインからドメインへの旅は、《Summer》の分岐ループの先駆である」と書いている。
2026年9月2日に、この13件のURLすべてに要求を出した。結果は、404が10件、403が1件、200が2件。ただし200のうちwww.thing.atが返したのは作品ではなく、「このドメインは売りに出ている可能性があります」という売却案内の駐車ページだった。1997年の断片をいまも返すのは、13件のうちwww.easylife.orgの1件だけである。
作品はそれでも開ける。二つの経路がある。
一つは、ブダペストのC3(Center for Culture & Communication)が2008年に行った復元である。c3.hu ↗はいまも200を返す。このページのHTMLのheadには、作家名と並んで次のメタタグが入っている。
<meta name="conservator" content="Elzbieta Wysocka" /><meta name="programmer" content="Márton Fernezelyi, András Szőnyi" /><meta name="description" content="The original version was created in 1997, this version was reconstructed during net.art restoration project in 2008" /><meta name="restoration info" content="The <alt> attribute have been converted into <title> attribute. Because the status bar no longer allows custom text to be entered the previous window.status, text is displayed in the status bar into the <href> as the <message> text. Java script is used to imitate previous mouse events with graphic elements." />
処置の報告書が、作品そのもののファイルのなかに書かれている。担当した修復家の氏名が、著者名と同じ資格でメタデータの欄に入っている。
第3節で見た《Brandon》のHTMLが、独立に同じ形をしていた。ブダペストの復元は2008年、ニューヨークの修復は2017年で、方法も規模も違う。それでも、どちらの作品も、開くと最初に手を入れた人の名前が読める。この分野の倫理規程が義務を課す相手は個人だった。二つの作品では、その個人の名前が作品の中身になっている。
もう一つは、この復元によって作品の形が変わったことである。リアリナの覚え書きは、13ドメインの経路を列挙したあとにこう続ける——2008年版以降、作品はhtml" target="_blank" rel="noopener noreferrer" class="md-url" title="http://profolia.org/agatha/was_born_to_be_happy.html">profolia.org ↗から始まる。13の独立したホストに散らばっていることを主題にした作品が、動き続けるために、一つのドメインへまとめられた。この単一の経路は2026年9月2日にも200を返す。
そして三つ目がある。同じ覚え書きによれば、1997年のオリジナル版をエミュレート環境に収めた「capsule」がドラガン・エスペンシートによって2020年8月に制作され、3点+作家保存用1点のエディションのうち第1番が、2020年9月にエスパス・マルチメディア・ガントネールの収蔵品となった。動き続けることが誰の義務でもなかった作品は、番号の付いた、所有できるものになることで、所有者を得た。
二項が崩れるのはここである。制度と作家の対立ではない。作品は、動かし続けられるために、動かし続けやすい形へ作り替えられている。散らばりを主題にした作品から散らばりが除かれ、ネットワーク上で走っていた作品が、エディション番号の付いた収蔵品になる。誰も義務を負わない状態で残す方法は、誰かが引き受けたくなる形にすることだった。
結論
四種類の文書を読んだ。受入契約書は、サーバーが動くことを「相応の努力」で約束し、作品を保存する措置については「意図するが、義務は負わない」と書いた。その約束さえ、次の条で「利用可能であることを表明も保証もしない」と打ち消されていた。アーカイブの監査は、約束の外に置かれた作品群の約40%が住所ごと消えたことを数えた。美術館の記録は、収蔵の第一歩が作品を止めることであり、動かし直したのは二件の出品依頼と、22点という枠と、その枠への寄付だったことを示していた。全員が根拠に挙げる倫理規程は、個人を拘束し、作品が動くことについては「壊すな」としか書いていなかった。
作品が動き続けることを結果として引き受けた文は、この範囲には無かった。あるのは努力の約束だけである。それでも作品は動いている。動かしているのは、出品の依頼であり、期限付きの助成であり、コードに注釈を書いた個人であり、ヘルシンキのデータセンターに機械を1台借りている作家である。
この構造には既に名前の材料がある。IPのネットワークは、パケットを届けるために最善を尽くし、届くことは保証しない。ネット・アートを保管する側の約束は、同じ形をしている。この構造をBest-Effort Preservation(最善努力の保存)と呼ぶことにする。
そう呼ぶと、次の問いが具体的になる。「best effort」には規格上の対義語がある——保証付きのサービスである。作品について、保証付きの約束を書いた文書はどこかに存在するか。存在するとして、その保証は何を単位に、誰に対して、いつまで有効なのか。
参考文献
- ArtBase Cloned Object Agreement(Rhizome、Electronic Arts Intermix提供のPDF)
- About - Rhizome Artbase
- Lozana Rossenova, "ArtBase Archive—Context and History: Discovery Phase and User Research 2017–2019", 2020
- html" target="_blank" rel="noopener noreferrer" class="md-url" title="https://www.digitalhumanities.org/dhq/vol/12/2/000379/000379.html">digitalhumanities.org ↗" target="_blank" rel="noopener noreferrer">Deena Engel, Lauren Hinkson, Joanna Phillips, Marion Thain, "Reconstructing Brandon (1998-1999)", Digital Humanities Quarterly 12.2, 2018
- Solomon R. Guggenheim Museum, "Guggenheim Restores First Internet Artwork Acquisition through Conserving Computer-Based Art Initiative", 2017年5月16日
- American Institute for Conservation, "Code of Ethics and Guidelines for Practice"
- RFC 791, Internet Protocol, 1981年9月
- arebyte Gallery, "Olia Lialina: Best Effort Network", 2020年7月4日-19日
- Olia Lialina, "Agatha Appears"(作家自身の覚え書き)
- 《Agatha Appears》2008年復元版(C3、ブダペスト)
- Olia Lialina, 作品索引
サーバー応答(HTTPステータス、Last-Modified、Aレコード、whois)はいずれも2026年9月2日に確認した。