作品を預かる側が、保管については結果を、稼働については努力だけを引き受けるという約束の形。ファイルが失われないことは義務として書かれ、そのファイルが作品として動き続けることは義務から名指しで外される。この非対称が明文で書かれているとき、その保存体制を最善努力の保存と呼ぶ。

「best effort」は新造語ではない。インターネット・プロトコルのサービスモデルを指す既存の術語であり、RFC 791は第1.2節で自らの範囲を限定して「端点間のデータ信頼性、フロー制御、順序制御、その他ホスト間プロトコルに一般的に見られるサービスを補強する機構は存在しない」と書く。ネットワークはパケットを届けるために最善を尽くすが、届くことは保証しない。デジタル保存の実務でも「best-efforts basis」は保存水準の低い側を指す言い方として使われている。ここではこの語を、作品を預かる文書に現れる特定の構造——約束が保管と稼働のあいだで切れること——を指す語として定める。

この呼び方が有効なのは、対義語が規格の側に用意されているからである。ネットワークには保証付きのサービス(guaranteed service)という反対の設計がある。作品についても同じ問いが立てられる。稼働を結果として引き受けた文書は存在するか。存在するなら、その保証は何を単位とし、誰に対して、いつまで有効か。

最善努力の保存のもとでは、作品が動き続けるかどうかは義務ではなく機会に左右される。展示の依頼、期限付きの助成、対象点数を区切った事業、担当者個人の判断——実際に稼働を回復させるのはこれらであり、いずれも約束ではない。

事例

RhizomeのArtBase受入契約書。第5条は「Our Obligations(私たちの義務)」という見出しの下で、サーバー稼働と冗長バックアップについて「相応の努力を払う」と書き、続けて「旧式のソフトウェアへのアクセスの提供、および記録・移行・エミュレーション・再解釈といった作品保存の措置の実施を意図するが、義務は負わない(We also intend, but are not obligated)」と書く。第6条はさらに、ArtBaseが利用可能であることを「表明も保証もしない」と書く。一方、第4条「Your Obligations」が作家に課す三つの義務には条件が付いていない。契約書全文(Electronic Arts Intermix提供のPDF)

同アーカイブの2016年の監査。Rhizomeが複製を預からず、リンクだけを持っていた作品400点超を調べたところ、約40%が同じ場所になく、同じ場所にあったもののうち完全に機能していたのは40%未満だった。全2,897件のレコードのうち複製が手元にあったのは837件である。Lozana Rossenova『ArtBase Archive—Context and History』2020年

シュー・リー・チェン《Brandon》(1998-99年、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館蔵)。1998年の委嘱時、館はデジタル作品を収蔵する方針を持っていなかった。収蔵の第一歩として2002年にサイトはオフラインにされ、2005年9月まで3年間止まっていた。稼働を回復させたのは2005年に重なった二件の出品依頼であり、2016-17年の大規模な修復は、対象22点・期限付き・寄付者4者による事業「Conserving Computer-Based Art」の事例研究として行われた。digitalhumanities.org ↗" target="_blank" rel="noopener noreferrer">Deena Engel et al., Digital Humanities Quarterly 12.2, 2018 / グッゲンハイム美術館プレスリリース(2017年5月16日)

米国保存修復学会の倫理規程。修復の関係者が根拠として挙げるこの規程は、13条すべての主語が「保存修復の専門家」という個人であり、「function」の語は2回とも、自分の処置で悪影響を与えてはならないものの一覧のなかに現れる。作品が動くことを提供すべきものとして書いた条項はない。Code of Ethics and Guidelines for Practice

オリア・リアリナ《Best Effort Network》(2015/2020年)。2020年7月にロンドンのarebyteギャラリーで開かれた同名の個展の中心作。作家は回転木馬の上を回り続け、ウェブサイトが別のブラウザーで読み込まれると姿を消す。ギャラリーの解説は、この作品が「best effort」のネットワークを使っており、データが期待どおりに届くことも、届き方が何らかの品質基準を満たすことも保証しないと書く。同展の《Summer》(2013年)は18枚の静止画を26のサイトに置いており、解説は「ノードが1つ落ちれば作品は壊れる」と書く。arebyte Gallery

オリア・リアリナ《Agatha Appears》(1997年)。当初は13のドメインへ鑑賞者を転送していく作品だった。2026年9月2日に13件のURLすべてを確認したところ、1997年の断片を返したのは1件のみで、10件が404、1件が403、1件は売却案内の駐車ページだった。作品はいま二つの経路で開ける——ブダペストのC3が2008年に復元し、単一のドメインから始まる形に作り替えた版と、ドラガン・エスペンシートが2020年に制作した、3点+1点のエディションの番号付きエミュレーション・カプセルである。後者の第1番は2020年9月にエスパス・マルチメディア・ガントネールの収蔵品となった。作家自身の覚え書き / 2008年復元版