作品の作り手が、自作を将来どう再現してよいか、何を変えてよいかを書き残した文書のうち、宛先の人物が特定されておらず、履行を誰の義務としても書いていないものを指す。新造語ではなく、既存語を保存の文脈に据え直したものである。

語そのものは、財産の分け方ではなく生き方の指示を子孫に残す遺言(ヘブライ語のツァヴァア)を指す古い語で、『ユダヤ百科事典』(1901–1906年)の「WILL」の項は、この種の文書について「健康なうちに書かれた場合、財産の処分についてすら道徳的な拘束力しか持たず、民事の裁判官はそれを執行できなかった」と述べている。芸術作品の保存にこの語を持ち込んだのはジョン・イッポリトで、2003年の書籍『Permanence Through Change: The Variable Media Approach』52ページで、可変メディア質問票への作家の回答についてこう書いた。「the results of a questionnaire like this can serve as an "ethical will" to guide the curators and technicians who may be charged with re-creating the work in the future(このような質問票の結果は、将来この作品の再現を任されるかもしれない学芸員や技術者を導く「倫理的遺言」として機能しうる)」。彼はこの語に定義を与えず、括弧に入れたまま一度だけ使っている。

倫理的遺言と契約書は、同じことを書いていても効き方が違う。契約書は当事者を名指し、始まりと終わりを持ち、履行されなかったときに誰が誰に対して言えるかを決めている。倫理的遺言は、読む人を「任されるかもしれない人」と書く。任される人が現れるかどうかは、この文書の管轄の外にある。だから倫理的遺言は、何をしてよいかを非常に細かく決められる一方で、何かがなされることを一度も要求しない。

この区別が問いを立てるのは次の三点においてである。第一に、ある作品について残された文書のうち、どれが契約でどれが倫理的遺言か——作家が署名していることも、法律用語で書かれていることも、決め手にならない。第二に、両者が食い違うときにどちらが効くか。作家が媒体の移行を認めていても、貸出契約書が貸出機関の書面による許諾なしの移行を禁じていれば、その期間に移行するかどうかを決めるのは作家ではない。第三に、倫理的遺言が「一切の変更を認めない」と書いた場合、それは作品に終期を与えるが、その終期まで作品を動かし続ける義務は誰にも生じない。終わりを決められて、途中を頼めない文書とは何なのか。

事例

可変メディア質問票(2000年–) — ジョン・イッポリトがソロモン・R・グッゲンハイム美術館で作り、現在はメイン大学のStill Waterが第3世代を運用している書式。作品を媒体ではなく振る舞いで記述させ、媒体が失われたときの方針をstorage・emulation・migration・reinterpretationの四つから選ばせる。2026年9月2日に確認した時点で、サイトはこの道具を「an instrument for documenting the opinions of creators and others associated with a work(作り手および作品に関わる人々の意見を記録するための道具)」と説明している。公開されているデータ構造の解説(v3.3)には、作品・構成要素・インタビュー・回答(各回答は重要度を持つ)・関与者という単位があり、「obligation」「responsib」「cost」「budget」「pay」はいずれも一度も現れない。関与者は「制作・展示・アーカイブに参加する任意の人または物」と定義される——参加する者の一覧であって、負う者の一覧ではない。

《net.flag》についての問いと答え(2003年) — 同じ書籍の111ページで、イッポリト自身がマーク・ネイピアのネットワーク作品《net.flag》(2002年、グッゲンハイム美術館委嘱)について「この作品がインターネット接続を通じて24時間週7日見られることを前提としている以上、美術館の責任とは何か」と問い、続けて「答えには幅があるので、四つの保存戦略に沿って並べてみる」と述べて、storage・emulation・migration・reinterpretationの各場合を検討する。責任を問う質問に、選択肢の一覧で答えている。書籍PDF

対照例:フェリックス・ゴンザレス゠トレスの証明書 — 作家の側の文書が必ず倫理的遺言になるわけではない。同書93ページで、グッゲンハイムの学芸員ナンシー・スペクターは、遺産側が整えつつあった証明書について「that the owner has the responsibility to reinterpret the work each time it is fabricated(所有者が、作品が制作されるたびにそれを再解釈する責任を負うこと)」を確保しようとするものだと書いている。ここでは責任の担い手が名指しされ、発生する条件(制作すること)も書かれている。倫理的遺言と契約を分けるのは署名者ではなく、担い手と条件が書かれているかどうかである。

対照例:Matters in Media Artの貸出契約書雛形 — ニューヨーク近代美術館・サンフランシスコ近代美術館・テート・ニューアートトラストが公開する書式は、借用者を名指して「貸与作品は展示に供されなければならない」と義務を課し、同時に「新しい媒体への移行」を貸出機関の事前の書面による許諾なしには行えないと定める。担い手・期間・違反時の帰結がそろっている。倫理的遺言が持たないものが、ここには全部ある。ただし作品が返却されればすべて終わる。