ネット・アート(net.art)は、インターネットそれ自体を素材かつ発表の場として用いる芸術の動向を指す。ウェブが一般に普及しはじめた1990年代半ばに、東欧・西欧・ロシアの作家たちを中心に形成された。作品は美術館やギャラリーを経由せずブラウザで直接開かれることを前提とし、HTMLやスクリプト、電子メール、サーバの挙動といったネットワークの構成要素そのものが表現の対象となる。
運動を支えたのはNettimeやSyndicateといったメーリングリストで、国境を越えた議論と共同制作の場として機能した。ASCII文字で映像を再構成したVuk Ćosić、ブラウザの誤作動や生のコードを画面に露出させるJODI、既存のウェブサイトを複製・改変して再公開することで公共メディアの権威を揺さぶった0100101110101101.ORGなどが代表例である。技術を積極的に使いこなす作品と、技術の不具合や限界を前景化する作品が並存し、遊戯的な実験から政治的な介入までを幅広く含んでいた。
2000年前後には、90年代の批評性や制度批判とは異なる方向として、軽やかで個人的な感性を掲げるNEENの宣言が現れ、以後Rafaël Rozendaalらブラウザ作品の作家群につながった。ネット・アートは、ネットワークを記録や配信の手段ではなく媒体そのものとして扱う態度を確立し、その後のインターネットを前提とする芸術実践の出発点となっている。