ハッカー・アートとは、既存のソフトウェア、ゲーム、プラットフォーム、ハードウェアを分解し、改変し、想定外の用途へ転用することによって成立する芸術実践である。ゼロから作品を作るのではなく既存システムへの差分として作品を立ち上げる点、技術の内部構造への理解そのものが表現行為となる点、そして改変の成果をコードやパッチとして公開・共有するDIY的で非独占的な態度を特徴とする。作品は完成した画面だけに宿るのではなく、カートリッジ、ソースコード、ROM、パッチ、そして配布という行為そのものへ分散する。

この語がメディアアートの言説に定着したのは1990年代後半である。ゲーム改変文化を美術の文脈へ接続した1999年の展覧会《Cracking the Maze: Game Plug-ins and Patches as Hacker Art》は、アーティストが制作したパッチと一般のゲームハッカーの成果を同じ議論の場に置き、modやプラグインを補助物ではなく制作形式として提示した。JODIの《SOD》や《Untitled–Game》はゲームのインターフェースを破壊して抽象的な画面へ還し、コリー・アーケンジェルのROMハックは市販ゲームから要素を削り取って風景だけを残す。既存ゲームの空間へ批評的なメッセージを書き込む実践も現れ、のちの戦術的ゲーム介入へつながっていく。

こうした実践は、ネット・アートコンセプチュアル・アートと価値観を共有する。作品の価値は希少なデータや物としての唯一性ではなく、システムに介入することで既存メディアの前提をずらす批評性と、そこで生まれる経験に置かれる。