序論:否定形で定義された語

アウトゲーム」は、日本のゲーム開発の現場で使われる語である。インゲーム——戦闘や操作といった中心のプレイ——の外側にあるもの、つまりメニュー、編成、ガチャ、チャット、課金、サーバ通信を指す。定義は否定でできている。「インゲームではない部分」であって、それ以上の内包はない。

否定で定義された語は、ふつう内容が定まらない。「その他」「上記以外」は分類の残りかすであり、何が入るかは分類の側が決まらなければ決まらない。ところがアウトゲームは、業界の中で十年以上、ほぼ同じ範囲を指し続けている。しかも指している範囲は、日本の行政と業界団体が規制の対象として選び取った範囲とほぼ重なる。

否定の中身は何が決めているのか。この記事はそれを一次資料で追う。結論を先に書くと、決めているのは語の意味ではなく、その語を使う組織が人をどこで分けているかである。

1926年に同じ語がある

先に語誌をひとつ片づけておく。国立国会図書館の書誌検索には、粟津実『アウトゲームの栞:女子新体育技』(日本婦人体力改造同志会出版部、1926年)という書物がある(NDLサーチ)。ビデオゲームより半世紀早い。一階千絵はこの書物を相撲競技の改変の試みとして論じている(「粟津實『アウトゲームの栞:新女子體育技』における相撲競技改変の試み」『群馬県立女子大学紀要』第37号、2016年2月、45–54頁)。

これは同名の別語である。ただし、ひとつだけ効く事実がある。日本の学術文献データベース CiNii Research で「アウトゲーム」を検索すると、2026年8月時点でヒットは6件で、そのうち4件が粟津のこの語をめぐる体育学の文献であり、ビデオゲームアウトゲームを論じたものは1件も無い(CiNii Research の OpenSearch API で取得)。CiNii が拾うのは主に書誌のタイトルと抄録なので、本文中で使っている論文までは数えられない。それでも、業界で日常語になっている語が、日本のゲーム研究のタイトルにも抄録にも一度も現れていないことは確かめられる。

2014年には「※」が要った

現場での使用を、この語を使う人たちが自分で書いた文書で辿る。日本最大のゲーム開発者会議 CEDEC(コンピュータエンターテインメント協会=CESA が主催)の講演公募ページが使える。講演者が自分で書いた申込文がそのまま公開されるからである。

2014年のシリコンスタジオ・池内優弥の講演「OROCHI 3による3DゲームのPS4、PS3、PS VITA、PC(Steam)マルチ開発講座」は、受講者が得られる知見の欄にこう書いている——「PCゲーム開発のアウトゲーム(※)に関する知見 ※課金、チャットなどメインとなるゲーム画面以外のシーン」(CEDEC 2014)。

二つ読める。第一に、2014年の時点では講演者が読者に通じないかもしれないと判断して、注記を足している。第二に、その注記が挙げた例は「課金、チャット」である。メニューでも編成でもない。金の受け取りと、プレイヤー同士の通信である。

十一年後、同じ会議の2025年の講演は「サーバー未経験でもOK!GS2で支える100万DAU大型IPゲームのアウトゲーム開発秘話」という題である(CEDEC 2025)。題に入っていて、注記が無い。中身はサーバ基盤の話で、得られる知見の欄は「ライブ運営までを見据えたGame Server Servicesの使い方」となっている。語は注釈を必要としなくなり、指す先は運営中のサーバへ寄った。

否定の中身を決めているのは、人の割り当てである

同じ会議の他の講演を並べると、この語が何の線かが見える。

2017年、ドリコムの西村拓也は「スマホ版「ダビスタ」の操作テンポと開発スピードを上げたUIフレームワークの作り方」で講演した。講演者からのメッセージにこうある——「本セッションではアウトゲーム制作の中心となったUIフレームワークの設計部分について、ゲームの実画面やソースコードを用いて解説します」(CEDEC 2017)。ここでのアウトゲームはサーバではなくクライアント側の UI であり、話の主題は「多人数でのゲーム制作」で開発速度をどう上げたかである。

2022年、WFS の内田啓太は「UIの開発スピードを高速化させる仕組み ~ヘブンバーンズレッドにおけるUnityを用いた事例~」で講演した。講演内容の要旨は「エンジニアとアーティストの作業工程を分離し、作業効率を上げるワークフロー」である。そして講演者プロフィールには、こう書かれている——「現在はヘブンバーンズレッドのアウトゲームを中心に開発を担当」(CEDEC 2022)。

この一行が要点である。アウトゲームは、ここでは製品の部位ではなく人の担当範囲として使われている。2014年の講演はプラットフォーム差の吸収、2017年は多人数制作の速度、2022年は職種間の工程分離、2025年はサーバ専任者を置かずに済ませる方法——四つとも、話題は違うのに、共通して「どこで作業を切り分けるか」を扱っている。

つまりこの語は、製品の中に引かれた線であると同時に、開発チームの中に引かれた線である。インゲームは試作と作り直しを繰り返す側、アウトゲームは枠組みを作って使い回す側。だから否定形のままで内容が安定する。中身を決めているのは「ゲームとは何か」という問いへの答えではなく、その会社が誰と誰を別のチームにしたかである。

線に、名前のある責任者が付く

2012年に、この線の外側だけに制度が付いた。

消費者庁は2012年5月18日に「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」を公表し、いわゆるコンプガチャが景品表示法の禁じる「カード合わせ」に当たるという見解を示した(消費者庁、平成28年4月1日一部改定)。この文書の語彙を数えると、行政がこの層をどう見ているかがわかる。「消費者」が22回、「プレーヤー」が2回。そのうち1回目は、こういう文である——「ここでいう『ガチャ』とは、オンラインゲームの中で、オンラインゲームのプレーヤー(以下『消費者』といいます。)に対して……」。行政は、この層に入った瞬間にプレイヤーを消費者と呼び替えると宣言している。

その3か月後、日本オンラインゲーム協会(JOGA)が「ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン」を制定した(2012年8月2日制定、同年9月1日施行。JOGA)。ここには具体的な数字が入っている。レアアイテムを1つ得るまでの推定金額の上限は1回あたり課金額の100倍以内、または5万円以内。加えて第4項第2号が求めているのはこれである——「有料ガチャの運用については、運用責任者を定めることとする」。運用責任者は提供割合を事前に承認し、その承認の事実を書面で記録する仕組みを社内に構築する。第6項は内部監査を求め、監査は「有料ガチャの運用を担当する部門から独立した他の部門」が実施するものとする。

2016年、CEDEC を主催しているのと同じ CESA が「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」を制定した(2016年4月27日制定・施行。CESA)。第6項はこうである——「有料ガチャの運営を担当する部門から独立した部門によって、ガチャの仕様の検証を行う」。

三つの文書は、いずれもアウトゲームと呼ばれる層だけを対象にしている。ボスの強さにも、操作の手触りにも、難易度曲線にも、規則は一行も無い。そして三つとも、「アウトゲーム」という語を一度も使っていない。CESA の2016年ガイドライン全文で「アウトゲーム」は0回である(本文中の「インゲーム」1件は「オンラインゲーム」の一部で、独立した用例ではない)。JOGA も消費者庁も同じく0回。CEDEC の壇上で注釈なしに通じる語が、同じ団体が出す規制文書には入らない。

規制の側は別の言い方をする。CEDEC 2024 では弁護士の前野孝太朗が「過去の処分例から見る、ゲーム開発・運営における景品表示法のポイント」を講演し、得られる知見の欄を「ゲーム開発における景品表示法上の留意点」と「ゲーム運営における景品表示法上の留意点」の二行に分けて書いている(CEDEC 2024)。開発と運営。線はほぼ同じ場所にあるのに、名前が違う。

この線引きに従わないと明言している文書がある

ここまでは、線を引く道具が二つ——分業と法——という話に見える。だが消費者庁の文書は、その整理に収まらないことを自分で書いている。冒頭の第1節はこうである。

以下では「ガチャ」や「コンプガチャ」といった用語を用いながら解説を進めていきますが、これらの用語は、理解しやすいよう……一般的に使われている用語を代表例として用いているものです。したがって、以下で解説する仕組みと同様の仕組みで、「ガチャ」や「コンプガチャ」とは別の用語を用いるものについても、下記4に記載された考え方は同様に当てはまりますので、御注意ください。

行政は、業界の語彙を借りはするが、それに拘束されないと宣言している。景品表示法第2条第3項が「景品類」を定めるときに使う要件は「顧客を誘引するための手段」と「取引に付随して」であって、ゲームの内と外という区別はどこにも出てこない。行政の線は取引で引かれており、たまたま業界の分業線と大部分が重なっているだけである。重なりは偶然ではないが、同一でもない。

英語圏は、同じ場所に線を引いていない

英語のゲーム開発語彙には、この否定形が無い。英語版ウィキペディアの「Glossary of video game terms」を本文67万字ぶん機械的に数えると、"in-game" は89回、"metagame" は11回、"gacha" は18回、"loot box" は17回現れるのに対し、"out-game" / "outgame" / "out game" は0回である([Glossary of video game terms](en.wikipedia.org ↗"in-game" を89回使う文書が対になる名詞を一度も必要としていないことは言える。

英語圏で近い位置にあるのは metagame である。ミゲル・シカールは2015年の論文 "Loops and Metagames: Understanding Game Design Structures" で、この語をこう定義した——「ゲームループとの相互作用の外部にあって、ゲームのプレイ経験に影響を与えるあらゆる側面」(FDG 2015)。そして5種類に分ける。情報的、虚構的、経済的、遂行的、身体的。

内訳を見ると、線がどこで引かれているかがわかる。情報的メタゲームの例としてシカールが挙げるのは、Minecraft の調合を調べるために読む wiki と、FIFA の技を覚えるために見る YouTube 動画である。身体的メタゲームは、そのゲームが遊ばれる物理的な場所を指す。どちらも開発チームが作ったものではない。wiki を書いたのはプレイヤーであり、部屋は誰も納品していない。

だから二つの語は、重なる部分(メニュー、通貨、ガチャ)を共有しながら、外側の縁が逆を向いている。metagame はプレイヤーの経験を基準に外へ伸び、開発者が触れないものを含む。アウトゲームは開発チームの担当範囲を基準に外へ伸び、プレイヤーが見ないもの——サーバ API、ビルドの仕組み——を含む。前者を引いているのは経験であり、後者を引いているのは分業である。同じ「ゲームの外側」という言い方で、違うものを囲っている。

なお、シカールの5分類のうち「経済的メタゲーム」は、彼自身が基本プレイ無料(F2P)の設計実務から来た概念だと書いている。日本の行政が規制対象として切り出した範囲と、この経済的メタゲームは、ほぼ同じところを指す。名前が三つある——アウトゲーム、経済的メタゲーム、ランダム型アイテム提供方式。名付けたのはそれぞれ開発チーム、研究者、業界団体である。

借りるときに、何が付いてこないか

展覧会「Any% Multideveloper — Reality in Polyphony」(NEORT++、2026年8月21日〜9月6日)は、この語を批評の側へ持ち出している。声明文は、拡張し続けたマジックサークルの外側にある気候変動や紛争や格差を「アンプレイアブルなもの」として眺めている状況を診断し、「そのようなゲーム化した世界の外側に重奏するアウトゲームを探求する」と書く。

転用は否定形をそのまま受け継いでいる。インゲームでないもの、が、円環の内側でないもの、に置き換わる。受け継がれなかったのは分業のほうである。開発現場でこの語に内容を与えていたのは、そこに担当者がいて、枠組みがあり、2012年以降は名前のある運用責任者と独立した検証部門までいた、という事実だった。それを外すと、残るのは「外側」という位置の指定だけになる。

ただし、この転用を空振りと決めつける読み方は一方的だと考える。逆向きにも読めるからである——外側にも運用者がいる。気候にはパリ協定の事務局があり、紛争には交戦当事者がいて、格差には制度の設計者がいる。開発現場のアウトゲームが「誰も遊んでいないが誰かが運用している層」を指す語だったのなら、その含意ごと持ち出すことはできる。展覧会の声明文はそこまでは書いていないので、これは私の推測である。どちらの読みが取られるかは、この語を使う人が、外側に運用者を見るかどうかで決まる。

概念:コンウェイの法則

否定形の語が安定した内容を持ったのは、意味のせいではなく組織のせいだった。この関係には既に名前がある。メルヴィン・コンウェイが1968年4月に Datamation 誌に発表した "How Do Committees Invent?" の結論部にある命題である——「システムを設計する組織は、その組織のコミュニケーション構造を写した設計を生み出すことを余儀なくされる」(著者自身のサイトに掲載された全文)。コンウェイは2010年にこの論文に自注を付け、命題が論文の末尾から3段落目にあること、そしてソフトウェア工学より広く使えることを書き足している。

この記事が付け加えるのは、写るのは設計だけではないという一点である。もっともコンウェイ自身が、論文の3段落目で設計組織の産物を「首尾一貫して構造化された情報を含む文書」と規定していた。写るのが文書であるなら、そこで使われる語彙が組織図の形をしていても不思議はない。インゲーム/アウトゲームという対は、ゲームの本性から出てきた区別ではなく、ある種の開発組織が人を分けた線の名前である。だから英語圏の研究者が同じ現象に別の線を引き、行政がさらに別の線を引く。

実務語を批評に借りるときに問うべきことは、この観点からひとつに絞れる。その語は誰の組織図か。

確信度の低い箇所(レビュー用)

  • CEDEC の用例は網羅していない。検索で見つかった2014・2017・2022・2024・2025年の講演ページを読んだだけで、全年の全セッションを走査していない。2014年より前の用例がある可能性は残る。「2014年には注記が必要だった」は確認できるが、「2014年が初出」とは書いていない。
  • CiNii の6件という数字は、書誌のタイトル・抄録に対する検索結果である。論文本文で使われている例は数えていない。日本のゲーム研究がこの語を扱っていないという主張は、この範囲でしか立たない。
  • 「開発チームの担当範囲が線を決めている」は、講演者プロフィールと講演の主題からの読みである。各社の組織図そのものを見たわけではない。反例(インゲームとアウトゲームを同一チームが担当する体制)は当然あるはずで、確認していない。
  • 展覧会の転用についての後半(外側にも運用者がいる、という読み)は私の推測であり、声明文にその記述は無い。本文でもそう明記した。
  • 英語圏の語彙の不在は、用語集1点の機械的な計数にすぎない。GDC の講演記録や各社の社内語彙は調べていない。

参考文献

  • 池内優弥「OROCHI 3による3DゲームのPS4、PS3、PS VITA、PC(Steam)マルチ開発講座」CEDEC 2014 セッションページ cedec.cesa.or.jp ↗
  • 西村拓也「スマホ版「ダビスタ」の操作テンポと開発スピードを上げたUIフレームワークの作り方」CEDEC 2017 セッションページ cedec.cesa.or.jp ↗
  • 内田啓太「UIの開発スピードを高速化させる仕組み ~ヘブンバーンズレッドにおけるUnityを用いた事例~」CEDEC 2022 セッションページ cedec.cesa.or.jp ↗
  • 前野孝太朗「過去の処分例から見る、ゲーム開発・運営における景品表示法のポイント」CEDEC 2024 セッションページ cedec.cesa.or.jp ↗
  • 金敏赫・丹羽一智「サーバー未経験でもOK!GS2で支える100万DAU大型IPゲームのアウトゲーム開発秘話」CEDEC 2025 セッションページ cedec.cesa.or.jp ↗
  • 消費者庁「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」平成24年5月18日(平成28年4月1日一部改定) caa.go.jp ↗
  • 日本オンラインゲーム協会「ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン」2012年8月2日制定・9月1日施行 japanonlinegame.org ↗
  • コンピュータエンターテインメント協会「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」2016年4月27日制定・施行 cesa.or.jp ↗
  • Miguel Sicart, "Loops and Metagames: Understanding Game Design Structures", FDG 2015 fdg2015.org ↗
  • Melvin E. Conway, "How Do Committees Invent?", Datamation, April 1968(著者サイト掲載の全文および2010年の自注) melconway.com ↗
  • "Glossary of video game terms", English Wikipedia(語彙の計数に使用、2026年8月取得) en.wikipedia.org ↗
  • CiNii Research「アウトゲーム」検索(件数は OpenSearch API の totalResults を使用) cir.nii.ac.jp ↗
  • 粟津実『アウトゲームの栞:女子新体育技』日本婦人体力改造同志会出版部、1926年(国立国会図書館書誌) ndlsearch.ndl.go.jp ↗
  • 一階千絵「粟津實『アウトゲームの栞:新女子體育技』における相撲競技改変の試み」『群馬県立女子大学紀要』第37号、2016年2月、45–54頁 cir.nii.ac.jp ↗