システムを設計する組織は、その組織のコミュニケーション構造を写した設計を生み出すことを余儀なくされる——メルヴィン・コンウェイが1968年4月に Datamation 誌の論文 "How Do Committees Invent?" の結論部で述べた命題である。原文は "organizations which design systems (in the broad sense used here) are constrained to produce designs which are copies of the communication structures of these organizations"。コンウェイは42年後に自注を付け、この命題が論文の末尾から3段落目に置かれていること、そしてソフトウェア工学に限らず使えることを書き加えている。彼自身が挙げた応用先は、労働市場・住宅・教育・医療にまたがるアメリカの貧困の構造である。
論文が「システム」と呼ぶものは機械に限らない。コンウェイは冒頭近くで、設計組織の産物を「首尾一貫して構造化された情報を含む文書」と規定している。写るのが文書であるなら、写るのは構造だけでなく、その文書が使う語彙でもありうる。これは論文が書いていないところまでの拡張であり、コンウェイの主張ではない。
この法則が芸術や批評の議論に効くのは、制作の現場で生まれた語が作品論に借り出されるときである。実務語は、その語を作った組織が人をどこで分けたかを内包している。借り手にはその分業が付いてこないため、語は形だけ残って内容を失うか、別の内容を得る。だからこの法則は、借りた語に対して一つの問いを立てる道具になる——その語は誰の組織図か。
事例
- インゲーム/アウトゲーム。日本のゲーム開発現場で使われるこの対は、「インゲームではない部分」という否定形で定義されながら、十年以上ほぼ同じ範囲を指し続けている。CEDEC 2022 の講演者プロフィールは、この語を製品の部位ではなく人の担当範囲として使う——「現在はヘブンバーンズレッドのアウトゲームを中心に開発を担当」(CEDEC 2022 セッションページ)。2014年の講演申込文は同じ語に注記を必要としていた——「PCゲーム開発のアウトゲーム(※)に関する知見 ※課金、チャットなどメインとなるゲーム画面以外のシーン」(CEDEC 2014 セッションページ)。英語圏の用語集にはこの否定形の名詞が無く、対応する位置にある metagame は「ゲームループとの相互作用の外部にあって、プレイ経験に影響を与えるあらゆる側面」と、経験を基準に定義される(Miguel Sicart, "Loops and Metagames", FDG 2015)。同じ「ゲームの外側」という言い方で、分業が引いた線と経験が引いた線という別のものを囲っている。
- 規制が組織の分割を要求し、それが製品に写る。コンピュータエンターテインメント協会の「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」(2016年4月27日制定・施行)第6項は、「有料ガチャの運営を担当する部門から独立した部門によって、ガチャの仕様の検証を行う」と定める(CESA)。日本オンラインゲーム協会の同種のガイドライン(2012年8月2日制定)は、さらに「運用責任者」を置き、提供割合の承認を書面で記録する仕組みを社内に構築することを求める(JOGA)。ここでは因果が逆向きに走る——規則が組織の分割を先に決め、その分割が製品の検証構造として現れる。
- コンウェイ自身の応用例。論文の自注で、彼は政府の構造がアメリカの貧困への取り組み方を規定していると読むよう勧めている(著者サイトの全文)。法則は技術組織に閉じない。