消失点とは、線遠近法において、実際には平行な直線の集まりが画面上で収束して見える仮想の点である。ルネサンス期に確立した線遠近法は、単一の視点を空間の中心に据え、そこから見た世界を画面へ投影する仕組みであり、水平面上の奥行き方向の平行線は地平線上の一点(消失点)へ集まる。カメラのレンズによる撮影もこの投影の幾何と同型であり、写真や映像には原理的に消失点が生じる。近景が速く遠景が遅く動く「速度の勾配」も、消失点を持つ空間で観察者と対象が同じ三次元空間を共有していることの帰結である。
消失点は必然ではない。平行投影や軸測投影では投影線が平行に保たれるため消失点は存在せず、距離にかかわらず平行線は平行のまま描かれる。東アジアの絵画伝統や現代の図学が用いるこの方式では、観察者という中心が解体され、画面のあらゆる場所が等価に扱われる。線遠近法が世界を一点から秩序づける装置であるのに対し、平行投影は中心のない空間を提示する。
古澤龍の《Passing》は、この対比をデジタル処理によって連続的に横断する作品である。映像の各フレームを時間軸方向に積層して時空間ボリュームを作り、そこから取り出す断面の角度を回転させると、一枚のフレーム内で成立していた時間の同時性が崩れ、画面の左右で参照される時刻がずれていく。結果として、消失点へ収束していた遠近法的空間は、水平線を媒介にしながら消失点のない平行投影的な空間へと漸次変容し、運動視差による速度の勾配も平行なパターンの連なりへと置き換わっていく。