スマートコントラクトは、一度ブロックチェーンに配置するとコードを書き換えられない。アップグレード可能なスマートコントラクトは、利用者が呼び出す「プロキシ」と、処理の中身を持つ「実装」とを分け、プロキシが参照する実装を差し替えられるようにした設計である。アドレスと保存されたデータはそのまま残り、振る舞いだけが変わる。upgradeTo() はこの差し替えを行う関数の名前として広く使われ、脆弱性の修正や機能の追加、規制への対応などに用いられる。差し替えの権限を誰が持つかによって、利用者が前提にしている「変わらないコード」が、実際には特定の主体の判断で変わりうることになる。

事例

荒川零一《upgradeTo(Leviathan)》(2026)は、Ethereum上の100個のアップグレード可能なコントラクトと、ひとつのERC-721トークンで構成される。コントラクトはそれぞれ「市民」と名づけられ、定められた時刻を過ぎると誰でも切り替えを実行できる。切り替わった市民は、ブラックリスト、資産の凍結、本人確認、徴税など、既存のステーブルコインやプロトコルから取った機能を持つ実装へ移り、それ以降の差し替えはトークンの所有者だけに許される。市民のデータは切り替えの前後で変わらず、前のコードはそれを星空として、後のコードはホッブズ『リヴァイアサン』の口絵に拠る身体の断片として描く。2026年10月にNEORT++で開かれた「自己破壊芸術展」に出品された。