記録版(Version of Record)は、ある時点で確定され、日付とともに記録に残された版のことである。学術出版では、査読と編集を経て発行された最終版を指す語として使われてきた。保存修復家ジョナサン・ケンプは2023年の講演「Forkology: conservators as art-developers」でこの語を作品の保存に持ち込み、保存修復家が作品に手を入れるたびに「時刻印つきの記録版(time-stamped 'versions of record')」が作られ、それは次の手入れの周期まで持続すると論じた。作品はそのとき、単一の作者という起源から「フォーク」される。

記録版は、作品が動き続ける系統のどこかに打たれた刻印であり、系統そのものではない。グスタフ・メッツガー《リキッド・クリスタル・エンバイロメント》のテートの所蔵記録は制作年を「1965, remade 2005」と書くが、その装置は電気技師エイドリアン・フォガティが1998年に試作を始め、所蔵の後も「Version 5.0」へ更新され、2017年3月には取扱説明書の第4版が作られていた。リヨン現代美術館の《Supportive》(1966–2011)、CRT財団の版(1966–2017)、ハウザー&ワースの版(1965/2021)は、同じ装置の系統から切り出された別の記録版である。所蔵記録に並ぶ再制作年は、この意味で記録版の日付と読める。

ブロックチェーン上の作品では、記録版は運用でなく構造によって残る。アップグレード可能なスマートコントラクトの実装交換は、差し替えのたびに新しい実装の番地をブロックに書き、古い版を上書きせずに残す。一方で、0xDEAFBEEF《Entropy》のlockCodeForeverのように、記録版を確定する操作が用意されたまま呼ばれていない状態や、荒川零一《assumevalid》のチェーンの書き直しのように、古い版を読めなくして新しい版だけを残す場合もある。記録版をいつ、誰が、どの方式で打つかは、作品ごとに異なる。