リアルタイム・シミュレーションとは、あるシステムの状態を時間の流れに合わせて継続的に計算し、その結果をその場で提示し続ける手法を指す。工学分野では訓練用のフライトシミュレータや物理演算がその典型だが、美術の文脈では、ゲームエンジンを娯楽の制作道具から切り離し、動き続ける彫刻や風景の媒体として用いる制作方法を指すことが多い。映像作品と違って始まりも終わりもなく、上映されるのではなく稼働している。
ジョン・ジェラードは、石油産業、大規模農業、エネルギー、気候といった巨大なシステムを、持続的に計算される世界として提示してきた。実時間に連動する太陽の位置や天候のなかに単一のモチーフが置かれ、鑑賞者はそれを完結した映像ではなく、いま進行している状態として見る。イアン・チェンの「ライブ・シミュレーション」のように、人間の介入なしに自律的に変化し続ける世界を指す概念も、近い問題意識のもとにある。3Dスキャンやガウシアン・スプラッティングで取得された現実の痕跡を、操作可能なリアルタイム世界へ変換する制作もこの枠組みに含まれる。
もっとも、リアルタイムであること自体が美的な価値になるわけではない。時間変化や偶発性が乏しければ、稼働しているという事実は作品の見え方に何も加えない。また鑑賞者が操作できる範囲は、エンジン、サーバー、データ形式といった技術基盤によってあらかじめ枠づけられている。リアルタイム・シミュレーションを読むことは、動く画面だけでなく、その動きを許している計算の基盤まで含めて読むことを意味する。