ゲームエンジンとは、ビデオゲームの制作に必要な機能——レンダリング、物理演算、アニメーション、衝突判定、サウンド、入力処理、シーン管理など——をまとめて提供するソフトウェア基盤である。作品ごとに一から実装する代わりに共通の土台を再利用することで、開発者はそのゲーム固有の設計に集中できる。1990年代にid Softwareが自社の描画技術を外部へライセンスしたことで独立した製品カテゴリとして確立し、現在はUnityやUnreal Engineのように統合開発環境を備えた汎用プラットフォームが広く使われている。
2010年代以降、その用途はゲーム制作の外へ大きく広がった。映画やアニメーションのバーチャルプロダクション、建築のウォークスルー、ロボティクスや自動運転の学習環境、そしてゲーム映像で映画を作るマシニマなどがその例であり、ゲームエンジンは計算された世界を生成し、維持し、操作可能にする汎用の世界生成インフラとして機能するようになった。Valveが2012年に公開したSource Filmmakerのように、ファンによる撮影目的の「誤用」がのちに公式ツールへ制度化された経緯は、この基層に撮影スタジオとしての可能性が当初から含まれていたことを示している。
メディアアートにおいて、ゲームエンジンは制作ツールであると同時に批評の対象であり、映像スタジオ、自律世界のシミュレータ、パフォーマンスの場としても扱われる。ハルーン・ファロッキ《Parallel》やイアン・チェン《Emissaries》のように、鑑賞者の直接操作を前提とせずエージェントが自律的に振る舞い続けるライブ・シミュレーションとしての用法が広がり、関心は人間の操作性から機械の自律性へ、そして「計算された世界は誰のルールで存在し、誰がその内部で行為するのか」という問いへ移っている。