ライブ・シミュレーションとは、あらかじめ完成した映像やレンダリング結果を再生するのではなく、実行中に計算が進み続けることで世界・映像・音響がその場で更新されていく表現形式である。作品は「完成した物体」ではなく「進行するプロセス」として現れ、観客は結果だけでなく生成が進む過程そのものを目撃する。実行のたびに条件が異なるため、同じプログラムであっても同じ出来事は二度と起こらない。

制作の主体構造もこれに応じて変化する。作者は個々の出来事を演出するのではなく、要素に行動規則と初期条件を与え、機械が出来事を生成する。イアン・チェンの《Emissaries》(2015–17)はゲームエンジンを用いて構築され、キャラクターや動植物が相互作用しながら終わりのない状況を生成し続ける。観客による直接操作を前提としない「自分でプレイするゲーム」として、プレイヤーという主体そのものを作品から外してみせた作例である。ここで世界は、作者が一コマずつ描くアニメーションでもプレイヤーが攻略するゲームでもなく、エージェントが反応し続ける生態系になる。

ライブ・シミュレーションは人工生命、創発、ワールドビルディング、そしてポスト・プレイヤー的な傾向と密接に結びつく概念であり、デバイスへストリーミングされる瞬間にのみ存在する仮想彫刻のように、作品の存在そのものが実行時間に依存する事例も含む。