ヨハン・ホイジンガ(1872–1945)はオランダの文化史家である。『中世の秋』(1919年)で知られる歴史家だが、後世への影響がとりわけ大きいのは1938年刊行の『ホモ・ルーデンス(Homo Ludens)』であり、同書は遊戯論とゲーム研究の出発点として参照され続けている。

『ホモ・ルーデンス』の中心命題は「遊びは文化より古い」であり、文化は遊びの「中で」そして遊び「として」生起・展開するという仮説が提示される。ホイジンガは遊びを、功利性や世俗的合理性を超えた自由な行為として位置づけ、生物学的・物理的な決定論には還元できない非物質的な意味を担うものと考えた。また遊びは、あらかじめ物理的あるいは観念的に区切られた場の内部で成立するとされ、競技場、トランプのテーブル、神殿、舞台、スクリーン、テニスコート、法廷などが、特別な規則が通用する一時的な世界として並置される。この聖域・儀礼と同型の時空間的区切りをめぐる記述が、のちにケイティ・サレンとエリック・ジマーマンによってマジックサークルとしてゲームデザイン理論に定式化された。ただしホイジンガ自身の境界は相互浸透的であり、遊びが真剣さへ、真剣さが遊びへと移行する流動性も認められていた。

もう一つの遺産は遊びの規範論である。同書の終章は遊びの賛歌ではなく現代における遊びの堕落への警告で閉じられ、真の遊戯精神を欠いた集団的熱狂や幼稚な自己満足を指すピュエリリズムの概念が提示される。