ワールドビルディングとは、架空の世界そのものを、地理、歴史、言語、社会制度、生態系、そこで働く法則までを含めて設計する営みである。もともとは文学、とくにSFやファンタジーにおいて物語の背景を構築する手法を指す語で、個別の筋書きよりも世界の内部的な一貫性を優先する点に特徴がある。ロールプレイングゲームやビデオゲームの設計にも受け継がれ、プレイヤーの行動を受けとめる規則と環境の総体を作る作業を意味するようになった。
メディアアートでは、2010年代以降、この語が実践の一段階を指す用語として使われている。既存の商業ゲームに寄生し、それを批評的に解体する段階を脱して、Unity や Unreal Engine といったゲームエンジンを直接のメディウムとし、哲学、社会システム、生態系をゼロから構築する方向である。ハンス・ウルリッヒ・オブリストがキュレーションした展覧会「Worldbuilding: Gaming and Art in the Digital Age」(2022〜2024年、ユリア・ストシェク・コレクションほか)はこの転換を包括的に提示した最初の試みで、オブリストはワールドビルディングを「既存の世界を受け継ぐだけでなく、新たな世界を創造するエージェンシー(主体性)」と定義し、ルール、ダイナミクス、環境を自ら設定することで現実とは異なる可能性を探る実践として位置づけた。
この手法による作品は、固定された物語や舞台設定ではなく、エージェントが反応し続ける生態系、あるいは自律的に変化し続ける仮想空間として構成されることが多く、ライブ・シミュレーションやポスト・プレイヤーと呼ばれる傾向と重なる。Cao Fei、Ian Cheng、Lawrence Lek らの実践がその代表例であり、ベン・ヴィッカーズによるロマン主義絵画のゲームエンジンでの再現、ニール・ブルーファ『Screen-Talk』、メリエム・ベナニによる移民問題を扱う作品など、監視、AI、移民、オンライン・コミュニケーションといった現代の主題を仮想空間内に組み直すプラットフォームとして機能している。