アトラクトモードとは、遊技機やインタラクティブな装置が、誰も操作していないあいだに置かれる正規の状態、およびその状態で装置が出力する内容を指す。コイン式遊技機の産業で成立した既存の実務語であり、新造語ではない。この項目では、その語を美術館に収蔵されたインタラクティブ作品にも適用できる問いとして扱う——この作品は、部屋に誰もいないあいだ何をしているのか。それを誰がどこに書いているのか。

三つのことを含意する。

  1. 誰もいない状態は、例外ではなく設計対象である。インタラクティブな装置にとって、入力が無い時間は稼働時間の大半を占める。アトラクトモードという語は、その時間を「故障」でも「電源断」でもなく、機械が滞在する名前つきのモードとして扱う。米国特許US5078399A(1990年出願)の記述では、アトラクトモードは電源投入時に動作し、プレイモードが進行中には動作せず、タイマーや電源復帰によってそこへ戻される——回路に実装された帰着先である。
  2. その状態に対する応答は一つではない。コイン式遊技機は、誰もいない部屋に向かって光と音を出し、通りかかった人を呼ぶ。International Game Technologyの米国特許US9412222B2(2013年出願)は、この目的を「機械が稼働して収益を生む状態にするため」と明記する。対して、ラファエル・ロサノ=ヘメルが作家向けに書いた保存のベストプラクティス(2015年)は、同じ状態への正反対の応答を規定する——「一定時間だれも操作していないことを検出して」モーターを止め、ディスプレイを暗くし、作品を保護する「アイドルモード」へ入れよ。呼びに行くか、眠るか。
  3. どちらを選ぶかは、空室の費用を誰が負担しているかで決まる。営業の場では、誰も遊ばない一時間は営業者の逸失利益なので、機械は自分で人を呼ぶ。収蔵の場では、誰もいない一時間は電力・ランプ寿命・部品寿命の消費なので、機械は止まる。アトラクトモードの有無は美学上の選択に見えて、費用の帰属を写している。

この語を持ち込むと、インタラクティブ作品の記録に対して具体的な問いが立つ。その作品の説明書・所蔵記録・再制作仕様書は、誰もいないときの挙動を規定しているか。規定していないなら、その挙動は毎回の設営で技術者が決めることになり、どこにも書き残されない。上映時間・輝度・電力の見積もりも、アトラクトモードの有無で変わる。

事例

  • 《Subtitled Public》(ラファエル・ロサノ=ヘメル、2005年、テート所蔵、所蔵番号T12565)——作家が公開している作品説明書(本文3,810語)には、解像度・赤外線光源・追跡技術・動詞リストについて交換してよい範囲が一項目ずつ書かれているが、idleattractも0回で、誰もいないときの挙動の規定は無い。起動と停止の手順は人間の操作として書かれている(プロジェクター、クォーツ照明、PCの順で入れ、逆順で切る)。テートの所蔵記録は材質欄にSoftware, interactive, colour, computer and video, 4 projectionsと記し、受入以降の稼働として2008年12月から2009年2月のテート・リヴァプールでの展示と、2018年のモントリオール現代美術館への貸出の二件を挙げる。
  • ラファエル・ロサノ=ヘメル「Best practices for conservation of media art from an artist's perspective」(2015年9月28日)——本文4,641語のうち、人が作品に触れることを指す語(interacted)はアイドルモードの項目に一度だけ現れる。attractは0回。同じスタジオが公開している監視スクリプトwatchdogは、本体アプリが書くheartbeat.txtの更新が止まったかどうかを毎分調べ、止まっていればアプリを強制終了して再起動し、さらに止まっていればコンピューターごと落とす。監視されているのはプログラムの脈であって、部屋に人がいるかどうかではない。
  • 米国特許US5078399A(ジョン・R・レノン・ジュニア、1990年5月24日出願、1992年1月7日登録)——「このゲームはアトラクトとプレイの双方のモードを示し、アトラクトモードは電源が最初に投入されたときに動作し、プレイモードが進行中には動作しない」。Google Patentsの本文で読める。
  • 米国特許US9412222B2(International Game Technology、2013年9月20日出願、2016年8月9日登録)——遊休中の遊技機をアトラクトモードに置き、光・音・映像で通りかかった客を引き寄せる仕組み。この特許ではカメラが客の視線方向を推定し、どの機械にアトラクト動作をさせるかを選ぶ。本文
  • ピップ・ローレンソン「Authenticity, Change and Loss in the Conservation of Time-Based Media Installations」(『Tate Papers』第6号、2006年)——時間ベースのメディア作品の保存に語彙を与えた論文。作品を定義する特性の列挙に「公衆が作品と出会うしかた」が含まれるが、本文約7,000語のうちattractidleも0回で、誰もいないときの状態は扱われない。