先行する著作物と組み合わせたときにのみ機能し、それを置き換えず、むしろその需要を増やす著作物。1990年にクリスチャン・H・ナダンが著作権法上の新しい類型として提案した語である("A Proposal to Recognize Component Works: How a Teddy Bears on the Competing Ends of Copyright Law", 78 California Law Review 1633)。新造語ではなく、提案されたまま採用されずに残っている既存の術語を指す。
ナダンの定義はこうである——「コンポーネント・ワークとは、他の著作物と一緒に用いられる著作物であって、それを置き換えない。むしろそれを良くする。したがってコンポーネント・ワークが存在することで、原作の市場はかえって広がる」。原作を置き換えないのだから、これを使う人は原作を入手しなければならない。ナダン自身が、この点こそが権利者の利益(創作の誘因)と公衆の利益(知識と革新への到達)を両立させる根拠だと論じている。同論文の脚注5は、この意味での「component work」がそれまで認められたことはないと明記する。
この類型が名指しているのは、既存の枠組みの隙間である。米国の著作権法の運用では、先行する著作物を用いた制作物は、二次的著作物(derivative work)として権利者の許諾を要するか、あるいは何も生じていないかのどちらかに振り分けられる。第9巡回区は1992年のLewis Galoob Toys対Nintendo of Americaで、ゲームの数値を実行中に書き換える装置について「それ自体では役に立たず、増強することしかできない」ことを非侵害の理由に挙げ、1998年のMicro Star対FormGenでは、レベルデータのファイルが「そのゲームでしか使えない」ことを侵害を成り立たせる条件に挙げた。同じ依存が、六年のあいだに免責の理由にも侵害の理由にもなっている。分かれ目になったのは依存そのものではなく、改変が読み取り可能な形で書き込まれたかどうかだった。コンポーネント・ワークという類型は、この二極のあいだに落ちているものを名指す試みだった。
コンポーネント・ワークとして扱えるかどうかを見分ける問いは三つある。(1)それは先行する著作物が無くても動くか。(2)それは先行する著作物の代わりに使われうるか。(3)それを使うために、先行する著作物を入手する必要があるか。三つの答えが「否・否・要」であれば、その制作物はこの類型に落ちる。modも、プラグインも、拡張機能も、パッチも、譜面データも、ここに入る。
この語には、判例に採用されなかったという履歴が付いている。CourtListenerの判例本文検索でNadan "Component Works"に一致する意見は、2026年9月2日時点でGaloob判決の1件だけである。制作の実態が広く成立している一方で、それを名指す法的な類型が三十年以上空席のままである、という状態そのものが、この語の指す対象の一部をなしている。
事例
コリー・アルカンジェル《Super Mario Clouds》(2002年) — 『スーパーマリオブラザーズ』のカートリッジを改変し、雲だけを残した作品。ホイットニー美術館は材質欄に「Handmade hacked Super Mario Brothers cartridge and Nintendo NES video game system」と書き、権利表示の欄には「© Cory Arcangel」とだけ書く(目録記録、受入番号2005.10、エディション2/5)。作家自身は材質を「Modded Super Mario Bros. cartridge」と書き、自分のサイトからROM像を配布している。2026年9月2日に取得した配布ファイルは40,976バイトで、16バイトのヘッダー、32,768バイトのプログラム領域、8,192バイトのキャラクター領域からなるカートリッジ全体の像だった。差分ではない。
JODI《SOD》(1999年) — 『Wolfenstein 3D』を改変し、白・黒・灰の幾何学的な面へ変えた作品。ZKMの目録記録は材質欄に「Software: modification of the computer game »Wolfenstein 3D«, »Wolfenstein 3D« game engine, C++」と書き、改変された当のゲームをコントローラーや画面と同じ列に並べる。作品サイトsod.jodi.orgは今も配布を続けており、2026年9月2日に取得した配布物には改変された実行ファイルと.WL6のデータ一式が入っていた。うち二つの音声データはファイル日付が1993年2月4日のままである。
Micro Star対FormGen判決の脚注5(1998年) — 「本件のMAPファイルは『Duke Nukem 3D』でしか使えないことを指摘しておく。もし別のゲームがこのMAPファイルを使って、ベージュ色の迷路を歩きまわり、凶暴な塩入れをクリップで殺す気弱な男の物語を語れるのだとしたら、そのMAPファイルは同作の保護される表現を取り込んでいないことになる」(判決文)。依存の有無が、そのまま侵害の有無に読み替えられている。
id Softwareのソースコード公開に添えられた注意書き — ジョン・カーマックは『Wolfenstein 3D』のソースを公開するにあたり、RELEASE.TXTに「このコードからビルドした実行ファイルを使うには、発売版のwolfかspearのデータが要る」と書いた(公開リポジトリ)。ソースは配り、データは配らない。作られるものがコンポーネント・ワークであることを、原作の側が設計上の条件として明示した例である。
Freedoom — Doomエンジン向けに、原作のデータを一切含まない完全な代替データ一式を提供する事業。自身の説明によれば「何十年にもわたってDoomのファンや作家が原作向けに作ってきた大半のカスタムレベル、音楽、グラフィック、その他の改変(『mod』)と互換であるように設計されている」。modの側は変わらないまま、依存する先だけが差し替わる。Micro Star判決の脚注5が仮定として書いた事態が、実際に成立している例である。
The Elder Scrolls V: Skyrim Creation Kit EULA — 配布先を「本製品を購入した他の正規利用者」に限り、用途を「その利用者自身の正規の複製物と組み合わせて使う目的」に限る(全文)。Galoob判決が非侵害の徴候として読んだ性質を、権利者は許諾の条件として書いている。同文書はmodという語を一度も使わず、「New Materials」と呼ぶ。